AIで仕事は速くなったのに、なぜ脳は疲れるのか ―注意の切り替え・判断の増加・睡眠から考える、経営者とエンジニアの働き方


財布や鍵が行方不明になる理由

最近、水筒をなくしました。財布や鍵もよく行方不明になります。無意識に置いて、どこに置いたのか全く覚えていないのです。最初は年齢のせいだと思っていましたが、どうもそれだけではなさそうです。

メールを書いている最中に電話が鳴り、学生が相談に訪れ、その合間に研究の文章を書く。こうして並行して仕事を進めるとき、脳は次から次へと注意を切り替えています。脳の前頭前野は、物事の判断や優先順位づけ、注意のコントロールを担うと言われています。切り替えが続くと、注意力や、一時的に情報を保持するワーキングメモリーに負担がかかります。

その状態で財布を机に置いても、置いた場所はそもそも頭に入っていません。忘れたというより、最初から覚える意識が向いていなかったのです。

判断の数を減らすという考え方

スティーブ・ジョブズは、黒いタートルネックにジーンズという、ほぼ決まった服装で知られています。脳の疲労を減らすために服装を決めて判断を減らし、本当に大切なことに集中したかったから、とよく言われます。

経営者は会社の方向性や投資、人材採用など、エンジニアは技術課題への対処など、日々重要な判断を求められています。そこに日常の小さな選択まで重なれば、脳が疲れるのも無理はありません。

AIで作業は減っても、判断は増えている

AIの活用で、資料作成も文章作成も情報収集も、以前よりずっと速くなりました。しかし私の場合、仕事は減るどころか確実に増えています。成果は5倍ほどに増えた実感がありますが、仕事の量も同じく5倍以上に増えたように感じます。

AIで一つの仕事が早く終わると、空いた時間に別の仕事を入れてしまう。さらにAIは多くのアイデアを提案してくれますが、何を採用し、何が正しく、どう実行するかは自分で判断しなければなりません。作業の負担は減っても、判断する機会は大きく増えているのです。AIそのものが脳を疲れさせると決まったわけではありませんが、便利になった分だけ仕事を増やし、脳が休めていないことを実感しています。

睡眠と脳の回復

睡眠は、記憶の整理や脳の機能の回復に重要な役割を果たしています。睡眠が不足したり質が下がったりすれば、翌日の集中力や判断力にも影響します。年齢とともに睡眠のパターンが変わることはあっても、睡眠が少なくてよいわけではありません。忙しさによる注意力の負担と睡眠不足が重なると、忘れ物のようなことが増えてくるのではないかと考えています。

脳を休ませることも仕事の一部

AIで成果を増やすことは大切です。しかし、その成果を長く出し続けるためには、意図的に脳を休ませることも仕事の一部ではないでしょうか。何も考えない空白の時間をつくり、睡眠や休憩の時間を確保する。仕事の効率化だけでなく、働き方そのものを見直す時期に来ているのかもしれません。

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