生成AIと教育――「全面禁止」ではなく、AIに何を任せ、人が何を考えるか


生成AIを教育の場でどう扱うべきか。禁止すべきだという意見がある一方で、研究や仕事の現場では、すでにAIが欠かせない道具になりつつあります。本稿では、2026年9月24日の日本経済新聞に掲載された記事を出発点に、大学で教育と研究に携わり、自らも生成AIを日常的に使う立場から、この問題を整理します。結論を先に述べると、AIを禁止するのではなく、「AIに何を任せ、人は何を考え、何を感じるのか」を教育の中で考えていくことが重要ではないか、というのが本稿の立場です。ただし、試験や評価のあり方については、まだ答えが見つかっていません。

新聞記事が指摘したこと

東京大学の酒井邦嘉教授による記事「教育現場 生成AI使用の全面禁止が必要」は、デジタル機器やAIに頼ることで、読む、書く、記憶する、自分で考えるといった力に影響が出る可能性を指摘しています。筆者自身も、特に「書く」力については、生成AIが登場してからの数年で落ちていると感じており、この指摘には実感があります。

研究と情報発信でのAI活用

一方で、筆者はすでに研究でも情報発信でもAIを大いに活用しています。研究では、論文の探索や要約、英語表現の確認に加え、物理的な数式の検討にもAIを使っています。ただし、最終的には研究者自身の責任で検算を行い、論文としてまとめています。

La quaLabの音声配信でも、ChatGPTとClaude Codeを用いて、録音した音声の文字起こしと文章の整理、BGMの付与、note記事の作成、YouTube動画の制作を行っています。以前は長い時間がかかっていた作業が、AIによって短時間でできるようになりました。こうした経験から、AIを使わなかった頃の仕事のやり方に戻ることは難しいと考えています。

アメリカン大学の選択

同様の議論はアメリカでも行われています。アメリカン大学(American University)Kogod School of Businessの学部長デイビッド・マーチック(David Marchick)氏は、当初は学生のAI利用を止めていたものの、学生はすでにAIを使っており、止めることはできないという趣旨を述べています。同校はAIを禁止するのではなく、教育の中に取り込む方向へ進みました。マーチック氏は、あるAI投資家の「AIに仕事を奪われるのではない。AIを使える人に仕事を奪われるかもしれない」という言葉も紹介しています。

## 大学教育で生じている課題

大学の教員としては、学生にAIをどこまで使わせるべきかという問題に直面します。紙に解答を書く従来型の試験は、AIがその多くに答えられる時代には見直しが必要かもしれません。しかし、AIと人間を同じ尺度で比べてよいのかについて、筆者はまだ答えを持っていません。

プログラミング教育では、生成AIが大学レベルのコードを短時間で書けるため、学生が本当に自分で書いたのか、内容を理解しているのかを評価することが難しくなっているという声を聞きます。一方で、卒業後はAIを使って生産性を上げながら働くことが前提になると考えられ、大学でAIを禁止することは現実的ではありません。

AIに任せること、人が担うこと

重要なのは、AIに作業を任せても、考えることまでは任せないことです。研究でいえば、論文の検索や要約はAIに任せられます。しかし、実験結果をどう解釈し、次に何をするかは研究者自身が考える必要があります。AIとの「壁打ち」は有効ですが、最終的な判断は人が行うべきだと考えます。

また、AIは人間の感情を理解できないと言われます。文章を整えたり、相手に合わせた表現を提案したりはできても、誰かの言葉に心を動かされることや、相手の表情を見て何も言わないほうがよいと判断することは、今のところ人間にしかできません。研究でも教育でも、人を動かすのは正しい情報だけでなく、そこに込められた熱意や共感、伝えたいという思いです。

まとめ

– 生成AIへの依存が、読む・書く・記憶する・考える力に影響する可能性は、実感としても無視できない。
– 一方で、研究や仕事ではすでにAIが欠かせず、教育の場で全面的に禁止することは現実的ではない。
– 大切なのは、AIに作業を任せても考えることまでは任せず、最終的な判断を人が担うこと。
– 試験や評価のあり方については、まだ答えが見つかっていない。AIを使いながら、自分の頭で考え、自分の心で感じられる人をどう育てるかが、これからの教育の課題ではないか。

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