
ワインというと、昔ながらのぶどう畑や、木の樽が並ぶ地下のセラーといった伝統的なイメージを持つ方が多いのではないでしょうか。しかし科学的に見ると、ワイン造りは温度、時間、酵母、糖度、pH、酸素、微生物などを管理する、高度なプロセス技術です。
材料だけでなく、プロセス管理が品質を左右する。この考え方は、半導体製造とまったく同じです。そして今、ワイン醸造の分野でも、センサーとAIを使ったプロセス管理の研究が進んでいます。
同じ地域のワインでも、味・香り・色が違うのはなぜか
筆者は普段、株式会社ベルーナが運営する「My Wine CLUB」で、ボルドー地方やブルゴーニュ地方など、地方別の12本セットを購入し、デイリーワインとして飲み比べています。
同じボルドーのワインでも、味や香り、色は一本一本違います。その理由は、ぶどうの品種なのか、畑なのか、気候なのか、それともワインの造り方なのか。こうした疑問が、ワインを科学的に見るきっかけになりました。
ワイン醸造は「発酵のプロセス管理」
ワイン造りの中心にあるのは、酵母による発酵です。酵母は、ぶどうに含まれる糖をアルコールと二酸化炭素に変えていきます。
ただし、発酵は「ただ進めればよい」ものではありません。
– **温度**:温度を管理することで酵母の働き方が変わり、発酵速度も変わります。その結果、味や香り、色にも影響するとされています。
– **pH・酸素・糖度・微生物**:これらもワインの仕上がりに関係するといわれています。
– **抽出**:特に赤ワインでは、ぶどうの皮などから抽出されるポリフェノールやタンニンも重要です。
つまり、ぶどうという原料が同じでも、プロセスが変われば、出来上がるワインも変わります。
## 半導体製造との共通点――材料だけでは品質は決まらない
半導体も、良い材料を用意すれば良いデバイスができる、という単純なものではありません。温度、時間、薬液濃度、雰囲気などのプロセスパラメータを管理して、初めて狙った品質を安定して作ることができます。
| | ワイン醸造 | 半導体製造 |
|—|—|—|
| 材料 | ぶどう | 半導体材料 |
| 主なプロセスパラメータ | 温度、時間、酵母、酸素、pH など | 温度、時間、薬液濃度、雰囲気 など |
| 目的 | 狙った味や香りを作り込む | 狙った品質を安定して作る |
こう考えると、ワイナリーはある意味で「一つのプロセス工場」だといえます。
## ワイン醸造におけるセンサー・AI・機械学習の研究
ワイン醸造でも、データに基づくプロセス管理の研究がすでに進んでいます。
– 発酵槽にセンサーを取り付け、温度、pH、溶存酸素、CO2などをリアルタイムで測定し、そのデータをAIや機械学習で解析する研究
– デジタルツインを使って発酵状態を予測しようとする研究
– 2026年には、実際のワインの発酵槽から取得した温度データを機械学習で解析し、発酵の進み具合を予測する研究も行われています
これらは、半導体工場で大量のセンサーデータを集め、プロセスの異常検知や条件の最適化を行っている取り組みと同じ考え方です。今後、ワイン醸造でもこうした技術の活用がさらに進む可能性があります。
AIは職人を置き換えるのか
一方で、ワインをAIで均一化してしまってよいのか、という問いもあります。ボルドーらしさ、ブルゴーニュらしさといった、ワインごとの個性まで均一にしてしまえば、ワインの面白さが失われるかもしれません。
筆者は、職人の経験や地域の伝統をAIに置き換えるのではなく、人間の感覚と経験をセンサーとAIが支える方向が望ましいと考えています。人が造り、ある程度のばらつきがあり、造り手の温かみを感じられることも、ワインの大切な価値の一つだからです。
まとめ
– ワイン造りは伝統産業に見えて、実は温度、時間、酵母、糖度、pH、酸素、微生物などを管理する高度なプロセス技術である。
– 原料が同じでもプロセスが変われば出来上がりが変わるという点で、半導体製造と共通している。
– ワイン醸造でも、センサーデータをAIや機械学習で解析する研究、デジタルツインによる発酵状態の予測の研究がすでに進んでおり、今後さらに活用が進む可能性がある。
– これからのワイン造りでは、AIが職人を置き換えるのではなく、人間の経験をAIが支援するという方向が考えられる。
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