
無意識の行動は、便利で、ときに危うい
人間の脳は、慣れた行動を少ない注意力で実行できる、いわば自動運転のような仕組みを持っています。この仕組みは日常生活を支える大切なものですが、慣れた行動がその場に合わない形で出てしまうと、思わぬ失敗につながります。心理学では、こうした意図しない行動を「スリップ」と呼ぶそうです。無意識は悪者ではありません。ただし、人は無意識のうちに間違えることがある。その前提に立つことが、失敗を防ぐ出発点になります。
電気ケトルをガスコンロに置いた朝
ある朝、コーヒーを淹れようとして、注ぎ口が細長い電気ケトルをガスコンロの上に置き、スイッチを入れようとしてしまいました。直前で気づきましたが、火がついていれば、ケトルの底が溶けたり、最悪の場合は火災になったりしたかもしれません。急いでいたわけでも、特別なことを考えていたわけでもなく、本当に無意識でした。
財布や鍵をどこに置いたか覚えていない。慣れた作業の途中で一瞬注意がそれ、紙や包丁で指を切る。失敗して初めて、自分が何をしていたかを意識する。多くの人に覚えがある経験だと思います。
意識的な処理と、自動化された処理
1977年、心理学者のシュナイダーとシフリンは、人間の情報処理について有名な研究を発表しています。人間の情報処理には、意識的に注意を向ける処理と、自動化された処理がある、というものです。
| | 意識的に注意を向ける処理 | 自動化された処理 |
|—|—|—|
| 車の運転の例 | 免許を取りたての頃、アクセル・ブレーキ・ハンドルを一つ一つ考えながら操作する | 数年運転すると、いちいち考えなくても自然に操作できる |
繰り返した経験は、そのまま行動として自動化されます。毎朝の歯磨きで歯ブラシの持ち方を考えなくて済むのも、この仕組みのおかげです。
慣れた行動が、その場に合わない形で出る
便利な自動化には落とし穴があります。電気ケトルの件は、細長い注ぎ口やケトルの形を見て、昔から使ってきたケトルだと思い込み、ガスコンロに置いてしまったのではないかと考えています(本人の推測です)。人間は何も考えずに行動できるほど便利な脳を持っていますが、その便利さが、時々失敗を引き起こします。
無意識の失敗は、笑い話だけでは済まないこともあります。会社員時代や大学院生の頃には、一歩間違えれば大きな事故につながっていたような経験もありました。
人は間違える、という前提
では、人の失敗はどうすれば防げるのでしょうか。多くの企業では、人間が間違えることを前提に、事故を防ぐためのさまざまな工夫が行われています。このテーマは、次回、会社員時代の経験を交えてお話しする予定です。
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