
結論:見えないものを見えるようにし、測れるようにして、改善につなげる
身近な製品には、ものづくりと品質向上のヒントが数多く含まれています。ダイソンの掃除機から読み取れるのは、次の3点です。
1. 見える化すると、人の行動が変わる
2. 一つの技術だけでは、良い製品にならない
3. 試して、測って、改善する
以下、可視化、ユーザー体験、サイクロン、高速モーター、技術統合、試作と改善の順に見ていきます。
可視化:見えなかったホコリを見えるようにする
ダイソンの掃除機には、床を緑色の光で照らすものがあります。床すれすれのところから光を当てることで、床から少し出っ張った細かなホコリを目立たせ、肉眼では気づきにくい汚れを見えるようにしています。
ホコリが見えると、使う人は「ここにもある」「こっちにもある」と、自然に掃除を続けます。情報を可視化することで人の行動が変わる、分かりやすい例です。
製造現場でも同じことがいえます。欠陥、汚染、工程のばらつきといった目に見えにくい問題を見えるようにすることが、改善のための行動につながります。
ユーザー体験:問題と成果の両方を見せる
ダイソンは、掃除の後にも可視化を用意しています。透明な容器にたまったゴミを見ると、「これだけ取れた」という成果を直感的に確認できます。
掃除する前にはホコリを見せ、掃除した後には取れたゴミを見せる。問題と成果の両方を見せることで、使う人は掃除の効果を実感できます。改善の前後を見える形で示すことは、品質改善の取り組みを続けるうえでも重要です。
サイクロン:工場の粒子分離技術を掃除機へ
創業者のジェームズ・ダイソンは、紙パック式の掃除機が、パックにホコリが詰まると吸引力が低下することに疑問を持ちました。着目したのは、工場などで使われていたサイクロンによる粒子分離です。空気を高速で旋回させ、遠心力でホコリを分離する原理を、掃除機に応用しようと考えました。
製品化までに作られた試作機は5,127台に上ります。さらに、完成したサイクロン式掃除機は、既存のメーカーになかなか受け入れられませんでした。
転機となったのは日本です。1980年代、日本のApexがこの技術を採用し、「G-Force」として商品化しました。ジェームズ・ダイソン自身も1985年に東京・西麻布で、日本向けG-Forceのクリーナーヘッドの設計に取り組んでいます。その後、自ら会社を立ち上げ、1993年に英国でDC01を発売しました。
高速モーター:毎分最大12万5,000回転
掃除機の心臓部ともいえるのが、超高速モーターとインペラー(羽根車)です。V12やV15に使われているHyperdymiumモーターは、毎分最大12万5,000回転、1秒あたり約2,000回転に達します。
モーターでインペラーを高速回転させて強い空気の流れを作り、その空気をサイクロンへ送ります。サイクロンでホコリを分離し、さらにフィルターで微細な粒子を捕まえます。
| 要素 | 役割 |
|—|—|
| モーター・インペラー | 高速回転で強い空気の流れを作る |
| サイクロン | 空気を旋回させ、遠心力でホコリを分離する |
| フィルター | 微細な粒子を捕まえる |
| 光学(照明) | 床のホコリを見えるようにする |
技術統合:システムとして組み合わせて初めて製品になる
モーターだけでも、サイクロンだけでも、ダイソンにはなりません。流体、モーター、フィルター、光学、材料、そしてデザインを一つのシステムとして組み合わせて、初めて魅力的な製品になります。
ダイソンのデザインは、技術をあまり隠さないことも特徴です。サイクロンの形やゴミが見え、モーターやパイプも含めて、機能そのものがデザインになっています。
複数の要素技術を組み合わせて全体として成り立たせるという考え方は、半導体をはじめ、さまざまなものづくりに共通します。
試作と改善:5,127台が示すもの
5,127台の試作という数字は象徴的です。作ってみる。評価する。問題を見つける。そして、もう一度作る。このサイクルは、ものづくりと研究開発そのものです。
まとめ
ダイソンは、単に吸引力の強い掃除機を作った会社ではなく、技術を組み合わせ、結果を見えるようにし、ユーザーの行動まで変える製品を作ってきた会社だといえそうです。見えないものを見えるようにし、測れるようにして、改善につなげる。この考え方は、研究開発や品質向上にも通じます。
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La quaLab(ラクオラボ)は、プロフェッサーブローこと清家善之が経営する会社です。「最新技術を品質向上に」をテーマに、半導体やものづくり、そして身近な技術について、研究者の視点から分かりやすく紹介しています。
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