
同じ機能でも、価格は大きく違う
同じような機能の製品なのに、価格が全然違う。そうした例は身の回りに多くあります。
2003年に創業した日本の家電メーカー、バルミューダは、トースターや電気ケトル、扇風機などを販売しています。黒を基調とした洗練されたデザインが特徴で、一般的な家電より価格は高いものの、デザインや独自の使い心地に魅力を感じて購入する人が多くいます。パンを焼く、お湯を沸かすという機能だけでなく、製品が置いてあるだけで気分が上がる。私たちは、機能以外の部分にもお金を払う価値があると考えているのです。
私が乗っているテスラも同じです。車内は非常にシンプルで、中央に大きなディスプレイがあり、物理的なボタンはほとんどありません。電気自動車としての性能やソフトウェアに加えて、デザインとブランド感も購入の理由の一つでした。
ルイ・ヴィトンのバッグも、機能だけを考えればもっと安い製品はいくらでもあります。それでも、デザインや歴史、ブランドへの信頼や憧れが、大きな付加価値を生んでいます。しかも、こうしたブランド価値は他社が簡単にマネできないため、参入障壁が非常に高くなります。デザインとブランドは、競争力そのものにつながっています。
工作機械にも広がるデザイン
こうしたデザインの価値は、消費者向けの製品だけの話ではありません。私が以前から注目しているのが、工場で使われる工作機械です。金属を高精度に削ったり加工したりする、ものづくりに欠かせないB2Bの機械です。
かつての工作機械は、四角い板金のカバーに囲われた、いかにも工場の機械という外観でした。ところが、DMG森精機の工作機械は流線型のデザインを取り入れ、まるで高級車のような美しい外観をしています。四角い板金で作る方が確実に安くできるはずなのに、あえてコストをかけているのです。
工作機械にとって、加工精度と生産性が最も重要であることは変わりません。ただ、数千万円、場合によっては数億円する機械だからこそ、見た目から伝わる品質感や先進性も、メーカーのブランドの価値につながっていくのだと考えられます。最近では、オークマやヤマザキマザックの工作機械も、洗練されたデザインになってきています。
良いものを安く、から、良いものに付加価値を
日本の製造業は長年、性能と品質、そしてコストを重視してきました。私もメーカーに勤めていた経験から、コストを下げることがどれほど重要かを身にしみて知っています。
しかし今、考え方は少しずつ変わってきているのかもしれません。良いものを安く作るだけではなく、良いものに高い付加価値をつけて売っていく。そのための重要な要素の一つが、デザインなのではないでしょうか。
2018年には、経済産業省と特許庁が「デザイン経営宣言」を発表しました。この宣言では、デザインを製品の見た目を良くするためだけのものではなく、企業の価値を高めるための重要な経営資源として位置づけています。そしてデザインの役割として、ブランドの構築とイノベーションの創出の2つを挙げています。デザインは単なるお飾りではなく、企業の競争力を高めるための手段なのです。
もちろん、デザインが良ければ何でも高く売れるという単純な話ではありません。ただ、性能や価格だけでは差別化しにくい時代だからこそ、デザインの価値が高まっていると感じています。
技術者に求められる視点
大学の研究にもデザインは必要なのか。この問いに、私自身はまだ答えを出せていません。研究の中心は、新しい現象の発見や技術の性能向上にあります。ただ、卒業後に多くの学生がメーカーに就職することを考えると、学生たちにはデザインの価値を理解できる技術者になってほしいと思っています。性能の良いものを作るだけでなく、どうすれば人が欲しいと思い、世の中に役立つ製品になるのか、という視点です。
良いものを作ることと、価値の高いものを作ることは、必ずしも同じではありません。高価な製品を見たときに、なぜ自分はお金を払いたいと思うのか。それは性能なのか、デザインなのか、ブランドなのか。そう考えてみると、普段の製品が違った視点で見えてくるはずです。
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