EVバッテリーは何年持つのか──ベトナムの新興EVメーカー「ビンファースト」に見る電池マネジメントの現在地


電気自動車(EV)の普及とともに、多くの人が気にするのが「バッテリーは何年持つのか」という疑問です。本稿では、ベトナムの新興自動車メーカー「ビンファースト(VinFast)」の事例をもとに、EVバッテリーの劣化のしくみと、それを支えるBMS(バッテリーマネジメントシステム)、そして高温多湿な東南アジアという環境がEVバッテリーにとって何を意味するのかを整理します。

ベトナムを席巻する新興EVメーカー「ビンファースト」

ベトナムの街中では、Vのマークをつけた車を数多く見かけます。この車を製造しているのが、ベトナムの大企業グループ「ビングループ」が2017年に設立した自動車メーカー、ビンファーストです。設立からまだ10年に満たない若い企業でありながら、ガソリン車からEV(電気自動車)へと大胆に方向転換し、現在ではベトナムを代表する自動車ブランドに成長しています。空港からホテルへの送迎車として使われるほど、EVの普及が街中に浸透している点が印象的です。

EVバッテリーの劣化としくみ

EVに搭載されている電池は、その多くがリチウムイオン電池です。スマートフォンのバッテリーと同様に、充電と放電を繰り返すことで電池の容量は少しずつ低下していきます。ただし、EVのバッテリーはスマートフォンとは規模も管理方法も異なります。車両の床下に大量のバッテリーセルを敷き詰めて搭載しており、温度管理システムや、充電状態を管理するBMS(バッテリーマネジメントシステム、Battery Management System)が組み込まれています。このマネジメントが適切に機能しないと、バッテリーの発火や爆発といった重大な事故につながる可能性があるため、EVの設計においてきわめて重要な要素となっています。

バッテリー保証とSOH(State of Health)という考え方

ビンファーストの場合、車種にもよりますが、バッテリー保証として「8年・16万キロ」または「10年・20万キロ」といった条件が設定されています。これはメーカー自身が、EVバッテリーはおおむね10年程度の使用を前提に設計していることを示しています。また、過去の保証条件では、バッテリー容量の指標であるSOH(State of Health、電池劣化度)を70%以上に維持するという考え方も採用されてきました。SOHが70%を下回ると、バッテリーの劣化がかなり進んだ状態とみなされます。実際の使用例でも、新車時に1回の充電で400キロ程度走行できたものが、3〜5年の使用で350キロ、320キロというように、走行可能距離が徐々に短くなっていくことが報告されています。

高温多湿な東南アジアという「環境実験」

バッテリーの劣化を早める要因としては、高温環境での使用や急速充電、満充電(100%)状態での運用継続などが挙げられます。この観点から見ると、年間を通じて高温多湿なベトナムは、EVバッテリーにとって厳しい使用環境です。ビンファーストがベトナムでEVを大量に普及させているという事実は、高温多湿な東南アジアの気候下でEVバッテリーがどのように劣化していくかを確認する、大規模な実環境での実証データを蓄積していることを意味しています。バッテリー技術・材料の研究者の視点からも、今後10年でこうした車両のバッテリーがどのような劣化挙動を示すのかは、非常に興味深い観測対象です。

まとめ

ビンファーストはベトナム国内にとどまらず、東南アジアやインドなど海外への進出も進めています。設立から10年に満たない若い企業が、EVメーカーとしてここまで急成長した背景には、大胆な事業転換と、高温多湿という厳しい環境下でのバッテリーマネジメント技術の蓄積があります。EVバッテリーの寿命は、リチウムイオン電池そのものの特性だけでなく、BMSによる温度・充放電管理の精度に大きく左右されます。今後、電動化とバッテリー技術の両面から、新興メーカーの動向を注視していく価値があるといえるでしょう。

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