「何も起きなくてよかった」で終わらせない ―人が間違えることを前提にした安全設計とリスクアセスメント


「何も起きなかった」は、危険がなくなったことを意味しない

ヒヤッとしたけれど、何も起きなかった。そのとき多くの人は胸をなで下ろし、そのまま次の作業に移ります。しかし、何も起きなかったからといって、危険がなくなったわけではありません。危険はそのまま残っています。人は必ず間違えるものです。だからこそ、間違えても大きな事故にならない仕組みを作ること、そして危険に気づいたら次の人のために情報を共有することが、大きな事故を防ぐ第一歩になります。

熱風炉のファンに、指が当たった

若い頃、塗装の実験をしていたときのことです。塗装では、材料に塗料を塗った後、熱風炉に入れて熱い空気で塗膜を乾燥させます。塗膜がなかなか乾かず、熱風が出ているかを確かめようとして、何気なく炉の上のファンに手を近づけたところ、回転するファンに指が当たりました。幸い怪我はありませんでしたが、一歩間違えれば指を失っていたかもしれません。

振り返ると、原因はいくつか考えられます。

| 原因 | 内容 |
|—|—|
| 見えにくさ | 熱風炉の中が少し暗く、ファンがあるかどうか分からなかった |
| ガードの欠如 | 回転するファンに、手が入らないようにするガードがなかった(扇風機のような鉄のガード) |
| 人の行動 | 不要に手を入れてしまった |

人間が間違えることを前提に、機械を設計する

いくら気をつけていても、人は無意識に危険な行動をとってしまうことがあります。それならば、人間が間違えることを前提に機械を設計する必要があります。

例えば、金属板を切断するシャーリングマシンの中には、両手で二つのスイッチを操作しないと刃が動かない仕組みを備えたものがあります。片手でスイッチを押せると、もう片方の手が危険な場所に入るおそれがあります。両手で同時にボタンを押さないと動かないようにすることで、作業者の手が危険な場所に入るリスクを軽減しています。

この仕組みだけで、すべての事故が防げるわけではありません。重要なのは、「気をつけてください」と注意を促すだけでなく、危険な行動が事故につながりにくい仕組みを作ることです。注意喚起の張り紙だけでは、効力は限られます。これが、安全設計の基本的な考え方の一つです。

報告しなかったことの重さ

この熱風炉での出来事を、当時の私は上司に報告しませんでした。怒られるのではないかと思い、黙っていたのです。その結果、安全対策は何も行われませんでした。次に同じ装置を使った人が、同じように無事だったとは限りません。自分が無事だったから、それで終わりではない。危険に気づいたら報告し、改善につなげる必要があります。

リスクアセスメントの基本

企業では、危険を事前に洗い出し、対策を考える取り組みとして「リスクアセスメント」が行われています。考え方はシンプルです。

1. どんな危険があるかを見つけ出す
2. その危険によってどんな事故が起こり得るか、リスクの程度を評価する
3. 評価に沿って、事故が起こる前に対策を実施する

対象は機械に限りません。薬品、電気、高温設備、さらに事務所のカッターナイフにも危険は潜んでいます。日本をはじめとする世界各国の企業で、リスクアセスメントは安全管理の重要な取り組みとして実施されており、特に大きな製造現場で重要視されています。

小さな「ヒヤッ」を見逃さない

「あー、危なかった。でも何も起きなくてよかった」で終わらせず、その経験を仕組みの改善と情報共有につなげる。小さな経験を見逃さないことが、大きな事故を防ぐ第一歩です。

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